トラック協会による巡回指導項目対を徹底解説【運行管理等編part2】

巡回指導とは、トラック協会が運送会社に対して行う「法令を守って運営をしているか」どうかの確認と指導です。

 

まずは巡回指導当日に、トラック協会の指導員によってチェックされる項目をご紹介します。

 

    事業計画等

     

  1. 主たる事務所及び営業所の名称、位置に変更はないか。
  2. 営業所に配置する事業用自動車の種別及び数に変更はないか。
  3. 自動車車庫の位置及び収容能力に変更はないか。
  4. 乗務員の休憩・睡眠施設の位置、収容能力は適正か。
  5. 乗務員の休憩・睡眠施設の保守、管理は適正か。
  6. 役員・社員等の変更等の届出事項に変更はないか。
  7. 自家用貨物自動車の違法な営業類似行為(白トラの利用等)はないか。
  8. 名義貸し、事業の貸渡し等はないか。
  9.  

    帳票類の整備、報告等

     

  10. 事故記録が適正に記録され、保存されているか。
  11. 自動車事故報告書を提出しているか。
  12. 運転者台帳が適正に記入等され、保存されているか。
  13. 車両台帳が整備され、適正に記入等がされているか。
  14. 事業報告書及び事業実績報告書を提出しているか。(本社巡回に限る。)
  15.  

    運行管理等

     

  16. 運行管理規程が定められているか。
  17. 運行管理者が選任され、届出されているか。
  18. 運行管理者に所定の講習を受けさせているか。
  19. 事業計画に従い、必要な運転者を確保しているか。
  20. 過労防止を配慮した勤務時間、乗務時間を定め、これを基に乗務割が作成され、休憩時間、睡眠のための時間が適正に管理されているか。
  21. 過積載による運送を行っていないか。
  22. 今回解説する項目

     

  23. 点呼の実施及びその記録、保存は適正か。
  24. 乗務等の記録(運転日報)の作成・保存は適正か。
  25. 運行記録計による記録及びその保存・活用は適正か。
  26. 運行指示書の作成、指示、携行、保存は適正か。
  27. 乗務員に対する輸送の安全確保に必要な指導監督を行っているか。
  28. 特定の運転者に対して特別な指導を行っているか。
  29. 特定の運転者に対して適性診断を受けさせているか。
  30.  

    車両管理等

     

  31. 整備管理規程が定められているか。
  32. 整備管理者が選任され、届出されているか。
  33. 整備管理者に所定の研修を受けさせているか。
  34. 日常点検基準を作成し、これに基づき点検を適正に行っているか。
  35. 定期点検基準を作成し、これに基づき、適正に点検・整備を行い、点検整備記録簿等が保存されているか。
  36.  

    労働基準法等

     

  37. 就業規則が制定され、届出されているか。
  38. 36協定が締結され、届出されているか。
  39. 労働時間、休日労働について違法性はないか。(運転時間を除く)
  40. 所要の健康診断を実施し、その記録・保存が適正にされているか。
  41.  

    法定福利費等

     

  42. 労災保険・雇用保険に加入しているか。
  43. 健康保険・厚生年金保険に加入しているか。
  44. 運輸安全マネジメントの実施は適正か。

 

赤文字で記載した項目は、特に重要とされる項目となります。

 

こちらの記事は、
トラック協会による巡回指導項目対を徹底解説!(事業計画等)
トラック協会による巡回指導項目対を徹底解説!(帳票類の整備、報告等)
トラック協会による巡回指導項目対を徹底解説!(運行管理等)part1
の続きとなります。

 

今回の記事では、⑳~㉖の「運行管理等」についての解説を行います。

 

この運行管理等に関する項目は重要項目が最も多く、最重要となります。

 

点呼の実施及びその記録、保存は適正か

 

点呼とは、運転手の健康状態や体内のアルコールの有無をチェックし、安全に輸送業務を行うために実施する確認業務です。

 

こちらの項目は、巡回指導における重要項目に指定されていますので、是非ともクリアしたいところです。
運送会社は、原則としてトラックの乗務前と乗務後に対面で点呼を行う必要があります。

 

点呼を行ったら、点呼記録簿として書面を作成し、営業所に1年間保存しておかなければなりません。
巡廻指導では、この点呼記録簿を指導員にチェックされます。

 

 

点呼について、運転手への確認事項や記録簿への記録については「点呼記録簿について必要事項や記入例について解説!」をご覧ください。

 

乗務等の記録(運転日報)の作成・保存は適正か

 

乗務等の記録とは、事業用自動車にて運行した場合に、1日の業務内容を記録しておく書面で、運転日報とも言います。

 

この乗務記録は書面又はデータにて記録・管理をし、営業所にて1年間保存しておかなければなりません。

 

また、様式に指定はありませんが、記載する項目は下記のとおり法律で定められていますので、漏れなく記載する必要があります。

 

 

一般貨物自動車運送事業者等は、事業用自動車に係る運転者等の業務について、当該業務を行った運転者等ごとに次に掲げる事項を記録させ、かつ、その記録を一年間保存しなければならない。

 

一 運転者等の氏名
二 運転者等が従事した運行の業務に係る事業用自動車の自動車登録番号その他の当該事業用自動車を識別できる表示
三 業務の開始及び終了の地点及び日時並びに主な経過地点及び業務に従事した距離
四 業務を交替した場合にあっては、その地点及び日時
五 休憩又は睡眠をした場合にあっては、その地点及び日時

 

六 車両総重量が八トン以上又は最大積載量が五トン以上の普通自動車である事業用自動車の運行の業務に従事した場合にあっては、次に掲げる事項
イ 貨物の積載状況

 

ロ 荷主の都合により集貨又は配達を行った地点(以下「集貨地点等」という。)で待機した場合にあっては、次に掲げる事項
(1) 集貨地点等
(2) 集貨地点等への到着の日時を荷主から指定された場合にあっては、当該日時
(3) 集貨地点等に到着した日時
(4) 集貨地点等における積込み又は取卸し(以下「荷役作業」という。)の開始及び終了の日時
(5) 集貨地点等で、当該一般貨物自動車運送事業者等が、貨物の荷造り、仕分その他の貨物自動車運送事業に附帯する業務(以下「附帯業務」という。)を実施した場合にあっては、附帯業務の開始及び終了の日時
(6) 集貨地点等から出発した日時

 

ハ 集貨地点等で、当該一般貨物自動車運送事業者等が、荷役作業又は附帯業務(以下「荷役作業等」という。)を実施した場合(荷主との契約書に実施した荷役作業等の全てが明記されている場合にあっては、当該荷役作業等に要した時間が一時間以上である場合に限る。)にあっては、次に掲げる事項(ロに該当する場合にあっては、(1)及び(2)に掲げる事項を除く。)
(1) 集貨地点等
(2) 荷役作業等の開始及び終了の日時
(3) 荷役作業等の内容
(4) (1)から(3)までに掲げる事項について荷主の確認が得られた場合にあっては、荷主が確認したことを示す事項、当該確認が得られなかった場合にあっては、その旨

 

七 道路交通法第六十七条第二項に規定する交通事故若しくは自動車事故報告規則(昭和二十六年運輸省令第百四号)第二条に規定する事故(第九条の二及び第九条の五第一項において「事故」という。)又は著しい運行の遅延その他の異常な状態が発生した場合にあっては、その概要及び原因
八 第九条の三第三項の指示があった場合にあっては、その内容

 

貨物自動車運送事業輸送安全規則 第8条1項 より引用

 

様式には代表者や運行管理者の押印欄があることが普通ですが、これらの押印は法律で定められているわけではないので、サインや確認した事が分かる記載で問題ありません。

 

運行記録計による記録及びその保存・活用は適正か

 

運行記録計とは、その名の通り運行に関して自動車の速度や走行距離等を記録する装置です。

 

丸い厚紙のチャート紙に記録するアナログタコグラフ(通称、アナタコ)と、デジタルによって計測を行うデジタルタコグラフ(通称、デジタコ)に大別されます。

 

そして、運行記録計による計測はすべての事業用自動車に義務付けられている訳ではなく、「車両総重量が7t以上又は最大積載量が4t以上の事業用自動車」について、その記録が必要となります。

 

最近は、デジタルタコグラフが主流であり、先ほど紹介した「乗務記録」と一体型になっているものもあります。

 

そして乗務記録と一体型の場合は、デジタコに記載されている下記の項目については、乗務記録への記録を省略することができます。

 

  • 休憩又は睡眠をした場合にあっては、その地点及び日時
  • 主な経過地点及び業務に従事した距離

 

なお、運行記録計の記録については、営業所にて1年間保存しておかなければなりません。

 

運行指示書の作成、指示、携行、保存は適正か

 

運行指示書とは、長距離運行等に関する計画や運行の指示を記載した書面です。

 

全ての運行に必要となるわけではなく、乗務前点呼と乗務後点呼の両方とも対面による点呼ができない場合のみ作成が必要となります。

 

具体的には、2泊3日以上の運行においては必ず必要となります。

 

なぜかというと、1日目は乗務前、3日目は乗務後において対面で点呼ができますが、2日目の運行においては営業所に戻っていないため、乗務前・乗務後ともに電話による点呼となってしまいます。

 

このような場合は、その運行について運行管理者等が運行指示書を2通作成し、正本を運転者に渡し、控えは営業所において管理しなければなりません。

 

なお、運行指示書に記載すべき事項は、法律で次のように定められています。

 

 

一般貨物自動車運送事業者等は、第七条第三項に規定する業務を含む運行ごとに、次の各号に掲げる事項を記載した運行指示書を作成し、これにより事業用自動車の運転者等に対し適切な指示を行い、及びこれを当該運転者等に携行させなければならない。
一 運行の開始及び終了の地点及び日時
二 乗務員等の氏名
三 運行の経路並びに主な経過地における発車及び到着の日時
四 運行に際して注意を要する箇所の位置
五 乗務員等の休憩地点及び休憩時間(休憩がある場合に限る。)
六 乗務員等の運転又は業務の交替の地点(運転又は業務の交替がある場合に限る。)
七 その他運行の安全を確保するために必要な事項

 

貨物自動車運送事業輸送安全規則 第9条の3 より引用

 

なお、運行の途中に運行指示書の内容に変更が生じた場合は、運行中の運転手に変更内容を伝えた後、運転手によって運行指示書を修正し、営業所にて関している書類と運転者が携帯している書類が同じになる様に修正を行います。

 

また、運行指示書についても保存期間があり、作成から1年間営業所にて保管しておく必要があります。

 

乗務員に対する輸送の安全確保に必要な指導監督を行っているか

 

こちらの項目は簡単にいうと「運転者に対する教育を行っているか」をチェックするものです。

 

あまり知られていないかもしれませんが、運送事業者は毎年運転者に対して、輸送の安全に関する指導を行う義務があります。

 

具体的には、下記の12項目に関する指導を1年間かけて実施しなければなりません。

 

運転者に対する指導教育項目
  1. 事業用自動車を運転する場合の心構え
  2. 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
  3. 事業用自動車の構造上の特性
  4. 貨物の正しい積載方法
  5. 過積載の危険性
  6. 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
  7. 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況
  8. 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
  9. 運転者の運転適性に応じた安全運転
  10. 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法
  11. 健康管理の重要性
  12. 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法

 

1年(12ヶ月)で12項目なので、1ヶ月ごとに1項目でもいいですし、1年に4回、3項目ずつ実施するという計画でも大丈夫です。

 

実施方法としては、国土交通省が出している「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」を使用し、運転者向けに安全対策会議を行うのが一般的です。

 

こちらのマニュアル資料については、国土交通省のホームページにてダウンロードすることが可能です。

 

会議を実施したら、実施した項目や主催者、出席者等を記載した議事録に使用したマニュアル資料のページを添付して営業所に3年間保管します。

 

なお、指導教育を行う対象や、アルバイトやパートを含むすべての運転者です。

 

下記の資料は、12項目を1年かけて実施した場合を想定した、1ヶ月分の教育議事録です。

 

特定の運転者に対して特別な指導を行っているか

 

特定の運転者とは「初任運転者」、「事故惹起運転者」、「高齢運転者」の3つの区分を総合した呼び方で、それぞれの定義は下記の通りです。

 

 

運転者の区分 定義
初任運転者 運送業の営業所にて新たに雇い入れる運転者
事故惹起運転者 死亡または重症者を生じる事故を起こした運転者。または軽傷者を生じる事故を起こし、その事故の過去3年間において何らかの交通事故を起こした運転者
高齢運転者 65歳以上の運転者

 

特定の運転者については、一つ前で紹介した「運転者に対する指導教育」に加えて、それぞれ別途特別な指導を行う必要があります。

 

それでは、3種類の運転者別に必要となる指導をまとめます。

 

事故惹起運転者に必要な指導

 

事故惹起運転者に対して指導が必要となる項目は、下記の6つです。

 

事故惹起運転者に対する指導教育項目
  1. 事業用自動車の運行の安全の確保に関する法令等
  2. 交通事故の事例の分析に基づく再発防止対策
  3. 交通事故に関わる運転者の生理的および心理的要因並びにこれらへの対処方法
  4. 交通事故を防止するために留意すべき事項
  5. 危険の予測及び回避
  6. 安全運転の実技

 

これら①から⑤までの項目について合計6時間以上実施する必要があり、⑥については、可能な限り実施することが望ましいとされています。

 

初任運転者に必要な指導

 

初任運転者に対して指導が必要となる項目は、通常運転手に対して行う指導項目である下記の12項目となります。

 

初任運転者に対する指導教育項目
  1. 事業用自動車を運転する場合の心構え
  2. 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
  3. 事業用自動車の構造上の特性
  4. 貨物の正しい積載方法
  5. 過積載の危険性
  6. 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
  7. 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況
  8. 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
  9. 運転者の運転適性に応じた安全運転
  10. 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法
  11. 健康管理の重要性
  12. 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法

 

これら12項目について、座学を15時間以上実施し、かつ下記の項目については、実際に車両を用いて指導する必要があります。

 

  • ②のうち日常点検に関する事項
  • ③のうち事業用自動車の車高、視野、死角、内輪差及び制動距離等に関する事項
  • ④のうち貨物の積載方法及び固縛方法に関する事項

 

それに加え、実際に事業用自動車を運転させ、道路及び交通の状況に応じた安全な運転方法を学習するための添乗指導を20時間以上実施する必要があります。

 

わかりずらいので、まとめると下記の表のようになります。

 

指導内容 必要時間

座学指導
内容:既存の運転手に対して行う項目と同じ12項目づき運転者が遵守すべき事項。
ただし、②のうち日常点検に関する事項、③のうち事業用自動車の車高、視野、死角、内輪差及び制動距離等に関する事項、④のうち貨物の積載方法及び固縛方法に関する事項については、実際に車両を用いて指導する。

15時間以上

添乗指導
内容:実際に事業用自動車を運転させ、道路及び交通の状況に応じた安全な運転方法を指導する。

20時間以上

 

高齢運転者に必要な指導

 

高齢運転者に対して指導が必要となる項目は具体的に定めがなく、単に「適性診断の結果を踏まえ、個々の運転者の加齢に伴う身体機能の変化の程度に応じた事業用自動車の安全な運転方法等について運転者が自ら考えるよう指導する」とされています。

 

次のタイトルで説明しますが、高齢運転者に対しては適性診断の受診が義務化されます。

 

その適性診断の結果をもとに、基本の12項目等から適切な指導項目を抜粋し、指導を実施するという内容となります。

 

特定の運転者に対して適性診断を受けさせているか

 

適性診断とは、運転者の運転技術に関する長所・短所や運転の癖を測定し、事故防止に役立てることを目的とした診断です。

 

この適性診断は、下記の通り運転者の区分によって必要となる診断が定められているため、それぞれの運転者において診断を実施します。

 

運転者の区分 必要となる診断 受診時期
初任運転者 初任診断

運送業の営業所にて新たに雇い入れた後、初めてトラックに乗務する前。
ただし、やむを得ない事情がある場合は、常務後1か月以内に受診する。

事故惹起運転者(下記に該当しない運転者) 特定診断Ⅰ 事故を起こした後、再び事業用トラックに乗務する前。
事故惹起運転者(死亡又は重傷事故を起こし、かつ、当該事故前の1年間に事故を起こした者) 特定診断Ⅱ 事故を起こした後、再び事業用トラックに乗務する前。
高齢運転者 適齢診断

65歳に達した日以後1年以内、その後3年以内毎に1回。
ただし、運転者に選任時すでに65歳以上であった場合は、選任から1年以内に受診する。

 

診断を実施したら、結果をそれぞれの運転者台帳に添付し、保管しておきましょう。

 

次の記事は、トラック協会による巡回指導項目対を徹底解説!(車両管理等)となります。
こちらも是非ご覧ください。